時刻は22時、もう夜の10時を回ろうとしていました。
リビングには私と、妻と、二人だけ。妻は家事も終えて、私には背中を向けて座って、自分だけの趣味に没頭し始めていました。私には決してわからない世界。ネコだけが、妻の傍にちょこんと座って佇んでいました。
もともと会話の少ない夫婦です。9時過ぎに戻ってきた私との会話らしい会話といえば、次女が就職の本命の面接だったのに想定外の質問で「崩れて」泣いて電話してきたという顛末と、今夜はちょっと寒いかなと思って薪ストーブの灰取りだけはしたけど結局はそれほど寒くもなかったから薪ストーブ点けなかった、ということくらい。
要は、実務打ち合わせの会話だけ、というのが普通です。次女についての会話も、どう対処したかと結果的に本人として気持ちの整理がついたかどうかの確認だけ。他愛のない会話は何もありません。それはもっぱら私のほうに原因があると思っていて……
私が、自分自身の人生として実現したいことや、こだわりがあって、年中、朝から晩まで頭の中はフル回転、余裕も何もなく、ずっと必死に足掻いているから
夢追い人、といえば聞こえはいいかもしれませんが、妻にとっては、決して良い伴走者ではないと思います。妻の話に「そうだよね」とただ言うことがなかなかできない、話の裏にある「思い」を汲み取ってあげることがなかなかできません。
だから私は、その贖罪ではありませんが、せめて「自分の好きなことを、私に何ら遠慮とかすることなく、やりたいようにやってくれるよう」、妻に対してお願いしているところではあります。
私に背中を向けて趣味に没頭し始めている妻は、ちょっと厚めに服を着込んでいました。私も、今晩は少し肌寒い晩だな、と思いました。窓際の温度計は19.4℃。エアコンはあるけどほとんど使うことのない我が家、今は大丈夫だけど、これから冷えるだろうな……と。
「あなた、しばらく、ここでやってるよね?」
「うん……そうね……」
妻の反応から、これは、かなり夜更かしをするつもりだな……と見立てた私は、薪ストーブを点けることにしました。
牛乳パックの火種から、適当な小枝に火を移してから、細めの針葉樹を3、4本、それから細割にした広葉樹のよく乾いた薪、密度が低いもの数本に続いて、最後に密度の高いものを数本、順にくべていって……
そうやって薪を見繕いながら、自分がイメージした炎を整えていきます。
空になっている二本のポットが満杯になる程度の量のお湯が沸かせるくらいの、コンパクトだけど、熾火も多少は持続するくらいの炎。
炎がきれいに上がって、お湯が沸き始めた頃、ネコがようやく気が付いて、ストーブの前にやってきました。ついでに載せた「ちぎりパン」も良い具合に焼け始めています。ネコが自分の傍から離れたとき、妻が振り返って言いました。
「やっぱり、ほんのりだけど、あったかいね(笑)」
写真の撮影時刻は22時33分。表面こんがり、サクッと焼けたパンは、今日もヘトヘトになるまで頑張った自分自身へのご褒美に。こんな時間に食べると太るのですが、私は翌日の「つじつま合わせ」も苦手ではないし、やっぱり「炎」があると、ついつい、こういうものがないと寂しいというか、欲しくなってしまうのです。
パンをかじりながら、美しい炎をじっと見つめます。私はもう眠るけど、この炎があれば、夜更けの冷え込みも少しは和らぐかな……と。
かつて、とび職や花柳界など、危険な仕事に就いている人を送り出すのに「切り火」をした思いと、火、炎という形に込める思いは、似ているのかもしれません。
思いを形にする
思いを整える
私は、どうやら、この薪ストーブを、暖房というよりも、あきらかに、そのような「炎」の価値を具現化するための優れた道具として、期待し、使っているようです。
最初はとにかく調理と暖房性能(少ない薪でいかに熱を取り出すか)とメンテやハンドリングのし易さでした。ここは一貫してブレないわけです。一方で、やっぱりガラスがくもって焔が見えないとなんだかとても嫌な気持ちになるんです。無意識の中に、火がただ見たい。そんな自分を発見しました。これからも良き相棒として付き合っていけることが嬉しく思います。
「iGブースター」を弊社で事業化する際の根拠となった性能検証をやっていただいた「もう一人の生みの親(2018年4月24日追記;「名付け親」でもあります)」、薪ストーブに嗜好性があるような「こだわる」方ならおそらく誰もが知る某有名メーカーで、重要な設備導入を手がけるエンジニアとしてヨーロッパなど各地を飛び回る超多忙な日々を過ごされている北海道のユーザーさんから、先日から相次いで掲載された各種レビューに対する感想として、わざわざ寄せていただいた言葉(メール原文ママ)です。
「炎」と向き合う、という長い歴史を通して、生き物としての人は「人間」になった、だから、今でも「炎」という形を必要とするのかもしれませんね、もしかして。
以上、短い(?)おまけでした。それでは、また。