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【2012年12月24日初出の個人記事アーカイブ】家のシロアリ対策-「5年ごとの消毒」などの予防的薬剤散布は、お金をドブに捨てるようなもの!-

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 家を維持管理する上でシロアリ対策は極めて重要である。通常の家では、重要な構造骨組みそのもの、あるいは骨組みと他の構造の接合部には必ず木材が使われており、特に耐震性を考えた場合、設計どおりの強度を発揮して命や財産を守ってくれるかは建築後のシロアリ被害をいかに防ぐかにかかっている。

 平成17年秋に竣工した建売住宅である我が家も例外ではなく、新築の頃は、何かしらシロアリ対策が施されていると聞いていたが、最近の薬剤は5年くらいで効果が切れるそうで、一昨年ぐらいに、ちょうどシロアリ防除を専門とする業者の訪問を受け、薬剤の床下散布やドリルを用いた注入を行った。

 業者に支払った費用は、確か20万円程度。昨日、その金はドブに捨てたようなものだということが判明した。偶然が重なり、ホンモノの専門家の調査と診断を受けることができたのである。聴いた話に私は目からウロコであったが、私と同じ失敗を、他の人にはしてほしくないため、ここで報告する。

 一番のポイントは、シロアリはアリではないので、アリのイメージで対策をしても無駄ということである。我々のよく知るアリは積極的に移動して餌を探し、行列を作り、餌への道筋が固定化すれば「蟻道」というトンネル構造も作り、移動中の外敵を避けながらも移動先では盛んに食害する。

 そんなアリへの防御は、したがって、通り道にあたるだろう場所に薬剤を広く撒いたり、あるいは逆に積極的に餌でアリを誘引し、それを毒餌にして巣を全滅させるというような方法が考えられる。シロアリは、その餌が家の木材ということであり、たとえばこの薬剤を5年ごとに撒きなおすことになる。

 しかし、ホンモノの専門家によれば、シロアリは明らかに土壌生物であるという。私のイメージとしてはミミズに近い。すなわち密閉された土の中を好み、外気を嫌い、水には溺れる。土の中で餌を探すが、好んで陸上に出てくることはない。実はシロアリは、餌を探しに出てくるわけではないのだ。

 彼らは、土の中で枯れた木材を食べたり、砕いた木材を利用して巣を作るなど、土の中でご機嫌に暮らしているが、巣を作る上では邪魔な土をどこかに捨てなければならない。そこで渋々土の表面などに出てくる。シロアリも蟻道を作るが、それは捨てた土が経路沿いにトンネル状になっただけのこと。

 とにかく重要なのは、シロアリは移動したくて蟻道を作るのではなく、人間でいう都市のゴミ捨て場のように生活空間の周囲にやむなく行動範囲を拡げるのだという。しかしその拡げた行動範囲に土に接している木材を偶然見つければ、同じ土の中という感覚でそちらに生活空間を移動させる。

 すなわち、ある木材がシロアリの食害を受けるかどうかは、かなり確率論的ということになる。具体的には①外気を嫌うシロアリが近くの土の中を生活空間としていること、②そこのシロアリが「土の中のトンネル」のように外気に触れずに木材に到達できること。この2点が条件になる。

 ここで②の経路になるのが、生活空間が延長された結果である蟻道トンネルであったり、コンクリート構造の隙間であったり、基礎の外側に仕上げのために塗られるコンクリートの裏側であったり…とにかくそれは、偶然近くに生息するシロアリが偶然出会う、ごく僅かの限定的な密閉空間ということになる。

 専門家によれば、ベタ基礎に覆われた下の土は、シロアリにとっては願ってもない密閉空間だという。外断熱という方式の家で、ベタ基礎の外側が断熱材で覆われている場合で、その「土のように柔らかな」断熱材の端がそのまま、ベタ基礎を囲む土に接していれば、はい、最適な移動空間の出来上がりと。

 つまり無防備な床下外断熱のような構造は、もはやシロアリには天国のような木材への到達経路となるが、逆に、そんな明白な経路がない場合には、偶然に偶然が重なってシロアリが見つけるごく僅かな隙間を事前に特定するのは到底不可能。さりとて毒性のある薬剤で家の周囲を薬漬けにできるかというと…

 だから予防的にシロアリ防除のための薬剤散布を行ったとしても、ごく僅かな隙間を事前に特定し注入できれば良いが、そうでなく外気に触れている土の表面に撒いてもシロアリには何の影響もないし、土の中に薬を入れようにも、実際問題ごく一部分だけの話。それが効力を発揮する確率はないに等しい。

 この無意味な対策の全ては、シロアリをアリだと思う誤解から始まっている。そして多くの業者も、5年おきに形だけ薬を撒いてお金を稼ぐのみ。それでは実際のところ家は守れない。本当に有効な対策は、あくまでも、シロアリに実際の侵入経路(ほぼ密閉された僅かな隙間)の存在を教えてもらうしかない。

 具体的にどう防除するかといえば、シロアリは、重要な構造材を食べにかかる前に必ず柔らかい部分を食べる。あるいは、構造材に到達するまで生活空間を広げる前に、その拡大する空間を密閉するための「蟻道」が表面に必ず顔を出す。その段階で、シロアリの居所を特定し、はじめて薬剤を使用する。

 ちなみに、その段階でシロアリの侵入を発見することは、専門家の説明を受ければ素人でも充分可能である。今日、2時間かけて、現状のシロアリ侵入の有無の診断と、今後の発見方法のレクチャーを受けた。その費用は、交通費も全て込みで、たった1万1千円!前の20万は一体なんだったのか?!

 …このように、我が家の庭にはシロアリに食害された木材も現に転がっているが、それは何の心配もしなくて良いこと、一方で土中から家の中につながる侵入経路が今後できるとすればどのあたりで、どうチェックすれば良いか、経験に裏打ちされた論理的な説明を聞いて、あまりの合理性に驚愕した次第。

 さて、ここまで縷々書いたが、この内容は、私の理解によるものなので、正確さには欠けるかもしれない。また、岐阜や愛知北部にはいないらしいが、イエシロアリという熱帯を起源とするシロアリの場合は移動性が高いらしく、対策は少々異なるらしいので、そのあたりは専門家に直接ご確認を。

 以上、具体的に役に立つように、昨日、私が話を聴いた専門家を改めてご紹介。「岡崎シロアリ技研」の神谷さん。東海地方が通常の守備範囲だが、要請があれば遠くまで出張しているのと…

www.sinfonia.or.jp 神谷さんが発起人の一人にもなっている「シロアリフォーラム」という技術者のネットワークがあり、北は宮城県から、南は九州まで、このようなホンモノの専門家として研鑽を積んでいる人々が各地に点在しているそうなので、そちらに問い合わせされると良いと思う。なお料金はそれぞれとのこと。

 以上、大変長くなったが、ホンモノのプロ、技術者の仕事というのはこういうものかと、大いに感銘を受けたことと、私はお金をドブに捨ててしまったが、そういうことが少しでも減って、合理的なお金の使い道になることを願って……この文章が、皆さんの何らかの役に立てば、望外の幸せである。