薪ストーブで調理したいと思わせる食材は「向こうから」語りかけてくるような気がします。鮮度というか、生き物としての命のようなもの。活き活きしている、これまで一生懸命、精一杯に生きてきました、みたいな感じがあると「これは!」と思います。
そんな目線ではアサリという食材は、なかなかに難しいと感じます。スーパーで普通に見かけますけど、美味しそうだなと思えるものは、正直少ないです。そもそも、そんなにお安い食材というわけでもないし。
そういう中では、こちらのように「鮮度、パッキングともこだわりました~!!」みたいなものが、アサリとしてはお勧めだろうと思います。水中で生きているのと同じような感じで管を出したりしてますね。
アサリなら、ハマグリもそうですけど、貝が口を開けた際の「汁」も極上の出汁みたいなものですから、それも含めて美味しく活用、量的にバランス取れるよう頂けるようにしたいので、アサリは一定以上の量を購入します。ともかく、アサリそれなりに値が張る料理になります。
……で!!登場するのは、やっぱり薪ストーブ。私は薪ストーブ&銅鍋で作るのが、味として最強だと思いますので、やはり「とっておき」なら、調理法も「とっておき」にしたいというわけです。
これは、物事の真理だと私は思っているのですが、本来大切なことほど、シンプルになります。少なくとも「最高の料理」というものは、まず最高の食材があって、それに散々手をかけるとかは、ちょっと違うかもしれないと私は思います。
その食材の持つ本来の味、魅力が、最大限、引き立つように調理する
薪ストーブは、そのような意図を持つ場合、本当の本当に「とっておき」の調理法です。では、薪ストーブdeアサリ、最高の調理法とは??
アサリのセオリーは、魚介の中でも極めて端的に「短時間加熱によって、火が通りすぎないこと」が最大のポイントだと私は思います。だって、火がしっかり通ったものだたら、アサリ本来の魅力は殆ど残っていないというくらいに、別物だと思いますから。
表現イマイチですが、生っぽくて、プリプリ、ふっくらしている……ここで加熱を止められる、なおかつ、貝殻は口を開けてちゃんと火が通っている状態。牡蠣も、いちばんうまい食べ方、そうですよね?
アサリで、その状態を具現化する方法は、私でしたら「酒蒸し」の一択です。しかも、短時間で一気に火を通すことができる状態での酒蒸し。ゆっくりではダメです、生っぽい魅力が薄れてしまう。
アサリは、先ほど申しましたが、一定以上の量を一気に調理するので、短時間で一気に全体に均一に火を通すための調理器具の選定がとても大切になります。もちろん、茹でるという方向を選択すれば解決できるかもしれませんが、そこは味噌汁でも良いのですが、汁も必ず頂く調理法でないといけません。
そして、やはり汁に損失してしまう美味しさも大きいので、やっぱりアサリそのものの身の美味しさとして、最大限引き出すためには、上手な酒蒸しが最善だと私は思います。
大量のアサリに短時間で必要な火を均一に通す――それは、当ブログ得意の「包熱効果」つまり、火力のある下面だけでなく、横からも、上からも食材に熱がかかるように――ということでは、銅鍋は最高かもしれませんが、アサリって結構ハードというか硬い殻が、デリケートな銅鍋には優しくない食材です。テフロン加工も貝殻が割れたりしたらひとたまりもないと思います。
私はつくづく思うのですが、日本の調理器具はバブルをピークに、時代とともに本質論からは退化していったような気がします。テフロン加工とか、確かに便利ではあるのですけど、どうしても永続性には欠けると申しますか……
その点、今はメーカーそのものがなくなった「キャセアース」や「クッキングナーベ」のような全面超耐熱セラミックの鍋(今も唯一「トーセラム」頑張ってますが)、あるいは、こちらのようなコーティングなしの地金そのものの鍋のほうに、どうしても軍配が上がってしまいます。
この銅鍋の高級ブランドでもある島本による「ドームパン」、厚みが3.5ミリもあって、熱伝導率の高いアルミ製ですから、包熱効果も最強です!!
ただ、薪ストーブとの相性には少し難があって、輻射熱という薪ストーブ最大の武器である「光」を、ピカピカとしたアルミは吸収するより反射してしまう(輻射熱を熱に有効に変えられない)性質があるのです。これはステンレスの多層クラッド鍋でも同じです。鋳物鉄は逆に輻射熱も有効活用できるのですが、熱伝導率では劣ります。
よって、こういうピカピカ系の鍋を薪ストーブで使う場合は、薪ストーブ天板との接触面積をできるだけ大きくしてやることによって、面的直接接触による熱伝導が最大限機能するように配慮することが大事です。そこで!!
単なるアルミというだけでなく、こういう「きれいに真っ平な鍋底」という加工精度と、さらに使っていても歪まない耐久性というように「気持ち」が込められた、この「ドームパン」というような高級鍋が非常に薪ストーブ調理にとって適しているわけです!!
ちなみに、これ……ホントの定価だと1~2万円はするんだろうなと思うのですが、IH全盛の昨今では、この手がかかった造りに対して二束三文という価格で手に入ったりします。例えば数千円なら全然お買い得なのですが……この写真の鍋の実際の購入価格なんて、もう、造り手に申し訳なくて絶対に言えません……orz
では、やたら長い前置きは以上で、「とっておき」アサリの酒蒸しの手順です。
- 砂出しをした新鮮なアサリをよく洗ってやる。貝殻をしっかり閉じる状態をよく確認する。ちょっと死にかけだと貝の口が開きかけているので、確実に最高の味を出したいなら取り除く(もったいないですけどね……)。
- 鍋を充分に予熱する。具体的には鍋の地金に水を垂らしたら、水滴が細かい水玉になって地金の転がっていく状態(テフロンコーティングだと、温度がかなり高くても水玉が転がるまでにはならないので注意)まで。 ……と言いつつ、この鍋はピカピカ過ぎて傷つくと残念なので、アルミホイルを敷いてやったものですから、勘の世界にはなります。長年やってるとできます。
- 貝を入れて蓋をする。全体に均一に熱が通りやすいようにゴトゴトゆすってやる。ともかく「全体」をむらなく加熱することが短時間で仕上げるポイント。
- 酒を適量注いで、水蒸気を発生させる。これによって短時間化を促進する。貝が口を開くきっかけになりやすいことも願って、少しゆすってやる。
- 大部分の貝が口を開けたと思ったら、加熱が進み過ぎないようできるだけ素早く皿に空ける。活きが良ければけっこうタイミング揃って口を開けるし、中にはいつまで加熱しても口を開けない貝が混ざっていることもあるので「全部」にはこだわらない。
実際に、やってみた様子を撮影した動画がこちらです!
動画撮影を意識して、多少(?)モタツキましたが、とっても美味しく出来上がりました!!
……って、ネコがすぐに検分に来ます……君ら、アサリは食えんやん……orz
ネコはどうでも良いのですが、刺身なんかもそうかなと思いますが、食材に対して手をかける工程が少なくなるほど、調理道具の僅かな差が、味、仕上がりに効いてきます。同じ調理法であるはずなのに、満足度が全然違ったものになります。
アサリの身の美味しさをダイレクトに楽しみたい場合、ポイントは次の二つ。
- 包熱効果を最大限生かした全体均一加熱
- 最短時間加熱で火が通りすぎないように
これを理想的に達成できる調理器具が、ここで使われたようなアルミ製のオーブン鍋といわれる道具です(ビタクラフトなど、ステンレスの多層クラッド鍋も優秀です)。
そこに「均一加熱」&「短時間加熱」において、とてつもないアドバンテージを誇るモキ製作所製の薪ストーブのような、鋼板製かつ炉内保護材(バーミキュライト等)一切なしの薪ストーブが加われば、まさに最強です。
私たちは、生きている以上、他の生き物の命を奪って食べることを運命づけられています。生き物は、私たち自身もそうですが、本当は他者に食べられたくなどありません。それでも食べられてもらわなければ困ります。で、あるならば、食べられる命には最大の敬意を。
人間はなおさら「頭でっかち」になりがちで、「真っ当な生き方」って、難しいですけどね(笑)自らの身体が喜ぶ、一番美味しい状態で食べ物を頂くというのが、命への最大の敬意だと思うのです。ですので、アサリを食べるだけのための、この記事を書きました。
風邪も引きやすい時期です。命を美味しく頂くには体調が万全であることも、調理器具云々以上に大切です。今冬は特に大切です。どうか、充分にお気をつけて、お風邪など召されませんように。
それでは!また!!お元気で!!!