超簡単薪ストーブ調理

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「美しい」とはどういうことか?―MD80Ⅱの最後の1台の設置を例に

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 薪ストーブの中でも私が最も美しいと思うMD80Ⅱ、先月になりますが、最後の1台がモキ製作所から出荷され、リフォームしたお家に、このように設置されました。

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 いかがでしょうか。そして外側の設置の様子はこんな感じでした。

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 ……「ふーん、あっそう」と思われたのではないかと思うのです。一見、なんの変哲もないように見えるのではないかと。けど、よほど気が付かれる人は「あれ?」と思ったのではないかと思います。

  • 炉壁がない
  • 壁のセンターから本体がずれている
  • 支え脚の長さが右左で異なる
  • 外側化粧板コーキングが板の奥になっている

 これらはいかにも既存建物への設置らしいことなのですが、筋交いその他構造木材の位置を踏まえた本来躯体強度の保全、煙突の防火及び重量の保持、カウンターキッチンからのスムーズな動線、より確実な雨仕舞&気密断熱性の確保……等々の課題をクリアーするために

  • 壁面及び壁内部特注仕様による壁自体の作り替え
  • ミリ単位(許容誤差10mm以内)精度での設計通りの取り付け施工
  • 気密防水等についての細部造り込み
  • その他特別仕上げ(床面への炉台埋め込みフラット化など)

 ……といった具合に、細部まで考え抜かれて、計画されたものだったのです。そして、このような手の込んだ案件では、さらに設計以上に大切なことがあります。

 

 良心的で腕のいい大工さんに、一肌脱いだ仕事をしてもらうこと

 

 設計がいくら緻密でも(大工さんからはお褒めを頂きました(笑))、よほど良い大工さんでもないと、絶対に、こんなにきれいには設置できませんでした。以下、理由を説明します。

 そもそもリフォームなのです。構造部材が具体的にどこに、どんなふうにあるか?なんて、図面なんてないし、普通の人にはまずわかりません。

 そこに数十キロとかの重さになる煙突を確実に保持させるために、実際の位置から誤差10mm(間柱は幅30mmしかない)以内でビスを打っていく(実際に建築当時の大工さんの胴縁との取り回しのクセを見抜いて上と下では20mmほど位置が違っていたりします)、しかも固定されていない重い煙突を水平真っすぐになるように……

 真ん中なら基準にもできる支え脚の長さも左右違う状態で、並の大工さんなら煙突グニャグニャになりかねない、取付作業だけですごく時間かかって、気密防水など仕上がり細部甘くなりやすい、といった「あるある」問題が容易に発生する状況だったわけです。

 私が関与する設置は、遠方が普通ということも大きいのですが、合理的にコストを抑えて頂くために、新築なら新築、リフォームならリフォームといった具合に、地元の大工さんに、施主さんが煙突と本体の設置作業を直接依頼して頂き、私はやり方、施工ポイントを大工さんに現地で説明するというスタイルが基本です。

 ですので、施主さんご自身が、どんな大工さんを確保し、その大工さんがどんな仕事をしてくれるか?ということが、難度の高い設置では実際の仕上がりっぷりを大きく左右します。

 ありていに言えば、普通の大工さんは出来るだけさっさと薪ストーブの仕事をやっつけて早く帰りたい(ないし自分自身の仕事に戻りたい)のです。そこを時間かかっても妥協せずにやってもらうためには、結局は人間は感情の生き物ですので、施主さんとしての人に対する見立て眼力を含む「人間力」のようなものが大事になってきます。

 この例での施主さん、Kさまは、私もびっくりするくらいの良い大工さんを、リフォーム内の一連の工事の中で特に目を付け(本来はその大工さんはKさま邸工事の担当ですらなく、援軍としてたまたま来ただけだったそうです)、関係を構築し、薪ストーブの設置のために「どうしても」とその人を呼んでくれました。

 そのような具合に、水面下で、並々ならぬ努力があったのです、この最後のMD80Ⅱの設置事例。でもパッと見たら、いかにも簡単に設置されているように見えるのではないでしょうか?誰がやっても同じように、さも簡単にやれるかのように、自然に、さり気なく。

 

 「美しい」とは、実は、万事そういうことではないかと思うのです。

 

 そこに至るまでの裏に、相当な努力なり「ご縁」のような出会いがあるはずなのに、だからこそ出来上がったものは、いかにも簡単に、自然にやってのけられたように見える……だから、普通の人には「すごいこと」って、かえってわからなかったりするのです(笑)よってお値段的にも売りにくくなります。それに対して

 いかにも「頑張りましたー!」「努力しましたー!!」というのが見える仕事は、本当の意味では、あまり努力したとは言い難くて、でも「その場限り」としては実はけっこう有効で、商売する側としても売りやすく、儲かるものだったりするのです。

 でも……美しいものが好きなひと、見る目があるひとからしたら、そういうのは「白々しい」と思えるはずなんです。実際、安直で、それこそ誰にでも、すぐに真似できますから。なにしろ全部「見えてます」からね~~

 

 そういう「美しい」の本質って、スポーツでも、音楽でも、あるいは科学とか学問の世界でも同じだと思うのです。「簡単に手に入るものに大したものはない」、実際には運とか偶然とかもすごく大切で、ふっと出来てしまったように見えなくもないですが……

www.kahaku.go.jp 実際には、その裏には、膨大な努力や試行錯誤、そこに至るまでに必死に足掻いたという実態実績があって、それで初めて「偶然」が実りをもたらしてくれるのです。いかにも偶然というか自然に出来たように見えるほど、そういうものらしいです、どうやら、あらゆる分野で。

 自分では良し悪しわからないモノやサービスを購入で手に入れる場合でも、そういう「美しいもの」をちゃんと手に入れることは可能ですが、それは「その人の在り方」みたいなものが必要です。

 この最後のMD80ⅡのKさまも、それはそれはすごい「その人の在り方」と申しますか……「引き寄せる力」を持っていたとしか言いようがないのです。

 

 最後に、なんでわざわざこの事例をブログで取り上げたのか?タネ明かししますと、昨今の煙の出ない薪ストーブを知っている方なら最初に「あれ?」と思ったはず。4枚目の写真(外側煙突ライン全景)ですね。

  • 煙突の立ち上がりが短すぎる(トップが低すぎる)

 普通の薪ストーブ屋さんだったら「こんな設置あり得ない!」というはずなのです。なぜなら煙モウモウな薪ストーブだったら、ストーブとして燃えるは燃えますが、家の壁とか煤でえらいことになってしまいますし、普通の煙の出ないタイプの薪ストーブなら、そもそも燃えません、無理です。

 「常識外の性能」を誇ってきた弊社「iGブースターモデル」でも前例のない無茶な煙突ラインでした。「横引き」の長さに対して「立ち上がり」がそのくらい短いのです。

 けど「iGブースターモデル」のノウハウをベースに「横引き」への対応力も強化して開発された後発「MD70Kiss」の設計思想とノウハウを逆輸入、「かまどモデル」の利点も生かして、この煙突ラインでもストレスなく毎日使える特別仕様モデルとして対応できてしまいました!!

モキならではの、いろんな燃料が使える特徴を活かしながら、でも、省燃費で、ゆったりと、安心して炎を楽しみたいのです。

 穏やかで繊細でもあるKさまらしい要望でした。でも詳しくは書きませんが、これは実際には相当難しいのです。少なくとも薪ストーブの本体性能もさることながら、煙突トップがどうなっているか、いつでも確認出来て、簡単に手が届くという状態が安心には不可欠だったのです。

 家の構造も含めて困難山盛りだったKさま邸案件、具体的には将来の薪ストーブ生活を見据えた薪への取り組み準備が大きかったのですが、最終的には「Kさまの在り方」をじっと見させて頂いて、私もはじめて「やってみよう、これなら行けるだろう」と判断したのでした。

 結果、地震や台風への備えとしてもすごく有利で、家の躯体に負担はかけないコンパクトな煙突ラインでの設置が実現でき、設置費用も全然安くなりました。実際にきれいに燃えた炎の様子も含め「Kさまとの出会いのみならず、私の側も今だからこそ実現できた」私にとっても記念となる事例でしたという……以上、タネ明かしでした(笑)

 

 

 以上、今回の記事では、私が最高に美しい薪ストーブの傑作と信じてやまない旧MD80Ⅱの最後の1台にちなんで、「美しい」を実現するための本質のような部分について論じてみました……って、実際には色んな偶然が重なり、成り行きでそうなっただけなのに、むっちゃ偉そうですが!!(笑)

 ともかく、いつも「美しい」ということを大切になさって下さい。美しい人生を歩んでいる人は、美しいです。自然で、何気なく、力まず、素敵な毎日を過ごしています。あたなさまも、是非、そうなれますように(私自身もそうなりたいのですが!!!年中バタバタ~~(笑))。

 逆に申しますと「たかが薪ストーブ」のために、ご近所から恨まれ、自らの人徳を棄損してしまうような事態だけは、どうか、くれぐれも避けて頂けますように!!

 それでは、また。お元気で!!

【公開翌日追記;以前の記事でも、モキ製作所の伝統的な薪ストーブのシンプルな本体そのものが「美しい」を体現しているということをご紹介しましたが、非常に手の込んだMD140というフラッグシップ機種が、まるで手が込んでいるとか何もないような「シンプルモダン」なデザインに生まれ変わりました(公式リリースは未だで今のところこちらのインタビュー記事だけに登場しています)。重厚デザイン重視&高気密高断熱ではない吹き抜け大空間等を暖房する目的が主なら、この↓美しいMD140Ⅲはお勧めです。】

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https://www.moki-ss.co.jp/burning/smokeless-wood-stove/interview-ogiwaraより